用途地域の指定が無い区域では、宅地分譲として農地を転用することはできません。
農地を区画割して分譲するには、建売分譲で申請します。でもそれは、あくまでも「農地法申請」上の話。
「建売分譲」で許可を受けておきながら、実際は宅地分譲で売買。
そんな実態を多く見てきました。なぜそれが可能なのか?解説していきます。
都市計画区分と建売・宅地分譲の判断基準については、こちらで詳しく解説しています。
造成と水道メーターだけで地目は「宅地」に変えられる
転用許可を受けたら登記申請手続きをして、地目を農地→宅地に変えます。
手続きに必要なのが、農地法の許可証と「現状がわかる写真」。
写真は、農地でなくなった状況を確認するため。
家が建っていなくても土地の造成と水道メーターがあれば、登記官は「宅地」と判断することが多い(※1)です。
※登記官それぞれの、判断基準や法解釈の差が広いため土地家屋調査士でも断言はできないそう。
自分の経験上、「建売分譲の農転許可」を受けた土地でも、宅地造成レベルで地目変更できるのが通例でした。
登記官は、「農地法の計画内容」で地目を判断しない
農転の許可証は建売分譲の計画なのに宅地造成と水道メーターだけ確認して、地目変更できるなんておかしくないか?
経験豊富な土地家屋調査士に聞くと、こんな返答が。
登記官の仕事は「現況がどの地目に当てはまるのか」、適正な判断をすること。
農地転用の計画通りに実行されたか、精査するわけではないんですね。
地目が「農地」でなくなれば、農地法は関係ない
転用計画と実態が異なるという事実、農業委員会は追及しないのでしょうか?
しないというより、「できない」のが現実。
というのも、宅地分譲で売買された時には、申請地の地目は「宅地」に変更済。
農地法は農地が対象であり、現況:農地の管理だけでも精一杯。
「宅地」になった元・農地のことまで、把握・関与しきれません。
もちろん、転用後の申請地についても進捗状況報告や転用事実確認など、その後の報告手続きは必要。
しかしこの報告は未提出でも罰則が無く、提出しない場合が多いです。
【転確・進捗状況報告】地目変更との関係、提出しないリスクも?
農業委員会は問題視、でも目をつぶっている
農業委員会は、建売で転用許可を出した申請地が、宅地分譲で取引されていることに気づいています。
市内の土地のことなら、情報は目にも耳にも入ってきますから。
実態をよく思わない農業委員や農林課の職員もいますが、是正しにくいので黙認、というのが実情。
登記手続きについて、取り扱いの改正まで踏み込むことはできません。
転用許可の取消も
- 悪質性
- 経済や街の発展への影響
など難しい判断が求められます。
本当は「宅地分譲」。「建売」申請の図面や資金証明は?
実行されない計画で申請するとき、裏付け資料はどうするのか?
建売分譲の計画で農地法の申請をするなら、建築物の平面図や立面図が必要。
資金証明書も、家屋建設費を含めた金額にしなければなりません。
転用許可のため事業者は、架空の建物図面を用意します。
取引先の金融機関も、内情を知ったうえで資金証明書を発行しています。
計画と「多少」違う施工は行政にも理解されますが、始めから実行するつもりがない点、法的にはグレーです。
事業者が建売を避ける理由
事業者が許可内容と異なる転用行為をしてまで、建売を避けるのはなぜでしょうか。
建売にしてしまうと、販売の可能性が限られてしまうから。
- 個人住宅が必要な人にしか売れない
- 土地と建物、両方気に入ってもらえないと売れない
費用はかかるのに、売れ残ったときのリスクが大きいのが建売分譲。
宅地分譲であれば、販売の可能性が広がります。
- 土地さえ気に入れば、建物の設計は自由
- 建物が無いので、売れ残っても資産価値は変わらない(減価償却がない)
良いか悪いかは別として
今回は、申請と実態が異なる少しグレーな転用について話しました。
これについて色々なご意見があると思います。
事業者と行政、それぞれの立場・視点に立ってみる。 法律、経済活動と規制、街の発展、人口問題、耕作放棄地…
考えることは色々あります。
建売や宅地分譲の申請を警戒してしまうかもですが、代理申請者として、経験値があがる依頼であることも付け加えておきます。
計画の規模が大きいので、筆数や申請人数も多い。
他士業との連携が必要だったり、複数の法令や許可業務が重なることも。
学ぶことがたくさんあります。
このブログでは、分譲に関してこんな記事も書いています。
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